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2007年9月20日 (木)

常紋峠・挑戦

DD51の重連貨物列車が走る石北本線。
北見駅で発車風景を見て、更に数年が経った1994年。自分の車で北海道を回った時、留辺蕊ユースホステルに宿泊。
ペアレントさんから話を聞いた。
「ここから遠軽方面に行くと金華という町をすぎて国道は線路から離れるけど、線路沿いの細い道を行った先に鉄道トンネルがあります。ちょっと車でないと行けないかな。」
「建設時に強制労働で多くの人が犠牲になり、今でも線路の下に・・・」間違いなく常紋トンネルの話だ。
「金華駅近くや、他にも慰霊碑があります。もし時間があれば見に行ってはいかがでしょう。」
「トンネルが狭いので、作業員を退避させるスペースが必要らしく、作業員が部分的に広げるために側壁掘ったら人骨が出てきた。驚いた作業員たちは大慌てで夜のうちに車飛ばして旭川まで逃げた。」
「夜行列車がトンネル手前の信号がずっと赤のまま発車できず、無線で確認しても異常なし、・・・」
古い記憶で定かではないが、常紋トンネルにまつわる話を秋の夜長、更けるまで伺った。
しかし、一番良い季節、車であるにもかかわらず、鉄道に余り興味が無いので足を運ぶ事は無かった。

さらに数年が経った2000年夏、観光地もあらかた巡った事だし、思い切って常紋に向かうことにした。
午前、北見駅ではコンテナの積み込みを行っている。駅近くのスーパーで弁当を買い、水が無いのでとりあえず駅トイレで補給する。
12時9分発の金華行きに乗る。車内で食事を済ませ、終点金華駅で下車。他に客はいなかった。駅には水道も無かった。
駅を出る。駅前は廃墟の様だ。何匹もの犬たちが凄い形相で吠えてかかってくる。国道に出て北へ向かって歩く。すぐ横をクルマが高速で走り去る。操作誤ってぶつかれば命は無い。
やがて、「常紋方面→入口」の看板、そちらに足を進める。クルマの恐怖から開放される。
細い砂利道、すぐに林の中、こんどは小さな虫が周りを飛び回る。うっとおしい。
しばらく歩くとふた手に分かれる。ここを右に下りれば線路に出られるのか?下りてみた。廃墟の先は藪につつまれ進めない。戻って左へ、ひたすら歩く。林が深くなる。右に川が近づいてきた。列車の音がするので線路が近い。
やがてまた道はふた手に分かれる。右に下りた先は線路が見える。ここで右に下りて列車を待つ事にした。
しばらく待つと、生田原側から1両のディーゼルカーが音もなく通過。今度は反対方向から2両のディーゼルカーがエンジンを唸らせゆっくりと上っていった。列車が過ぎると沢の音しか聞こえない。
特急が轟音とともに走り去る。また静寂に戻る。暑い。飲物は飲み干してしまった。トイレで汲んだ水だけは手をつけたくない。
時間が近づいてきた。遠くで芝刈り機のような音が聞こえる。近づくにつれ回転数を上げたディーゼル音だとわかった。まさかである。レールがきしむ。確実に列車はこちらに向かっている。
広角レンズでカメラをスタンバイ。そして爆音とともにゆっくりと列車は目の前に姿を現す。シャッター一発勝負。
Img_0034 機関士と目が合う。会釈をしたら手を振ってくれた。乾いた貨車の音が響く。通り過ぎた列車は警笛を鳴らし、また静かになった。しばらくその場にしゃがみこんでしまった。
薄暗い山道を歩いて駅に戻る。下りなので比較的楽だ。どうにか無事に駅に着いた。すっかり夕方になっている。

旅先での大切な時間をこんな事の為に半日潰してしまった。しかし肌身をもって北海道の大自然と現実を味わう事が出来た。そして、30代の幕が開けた。

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コメント

「こんな事」も、そこに行かねば体験できない。
決して無駄な時間ではなかったはず…。

投稿: ともぞう | 2007年9月20日 (木) 12時57分

返事早いですね。感心します。
「こんな事」へのセリフ不足していました。最終的な目的がたった1枚の写真撮影であった為、あくまで「興味ない人から見れば」であり、
この時の収穫は大きかったです。ただガイドブックに載っている観光地を見て回って一見さん相手のレストランで食事だけではその場所本来の姿は見えてきません。
過疎化が進んだ地域、危険なクルマ社会、そして熊やスズメ蜂など人に危害を与える動物や昆虫類、さまざまな危険や恐怖と実は隣り合わせであり、一人の人間の無力さをなんとなく思い知ることが出来ました。

投稿: 二足歩行@やす | 2007年9月20日 (木) 13時28分

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